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 今回は、ロベルト・ミヘルスの『現代民主主義における政党の社会学ー集団活動の寡頭制的傾向についての研究ー1・2』(木鐸社)を取り上げる。ミヘルスは、ドイツ社会民主党の活動家であり、理論家であったが、その後、社会民主党に疑問を持ち、後に社会主義活動から離れ、スイスで教鞭をとることになる。
 ミヘルスの言う寡頭制」とは、少数の固定した指導者に権力が集中する社会主義政党に典型的な「中央集権的政党体制」(民主集中制)のことである。
 かれは、党の指導者層の権力支配=寡頭制は次のような権力基盤を持っているとミヘルスは述べる。
 「指導者層は党の財政力をもわがものにしえ、それを自分の権力地位の強化と保全のために利用できるからである。」「大衆に対する支配を獲得、確保、強化するための有力な一手段は、新聞である。」「たしかに新聞は、大会や党会議での討論などにおける人気のあるアジテーターの人格が聴衆に及ぼすような、直接的効果をあげることはできない。しかしその代わり、影響の及ぶ範囲はくらべものにならないほど大きく、その声は話し言葉の声よりもずっと遠くまで達する。」(第2部第2章、p125)
 第3部では、「大衆指導が指導者に及ぼす心理的反作用」が分析される。即ち、「党と指導者の一体化」が進み、「党はわれなり」となると結論づける。
 第6部においてミヘルスは、次のように述べている。
 「議会主義とは、できるだけ多くの投票数を獲得しようとする努力を意味する。党組織とは、できるだけ多くの党員を獲得しようとする努力を意味する。党活動の主要分野は、選挙アジテーションと党員獲得アジテーションにある。」「社会民主党は二つの領域で活動する集合体として、投票の獲得と党員の獲得とを同時に指令した。」(p421)「国家の集中された権力を打倒するために生みだされ、また国家の組織を支配するようになるためには労働者階級は何をおいても十分大きく強固な組織を必要とするという考えから出発した労働者の党は、今自分自身を強力に中央集権化し、その壮大な殿堂を国家や都市と同じ土台ーつまり権威と規律ーの上に築き上げた。」「こうして政党は一つの政府としての党、つまり小規模な政府のようにみずからを組織し、いつの日か大規模な政府を圧倒するという希望に生きる政党になった。」(p422)

 では、ヒトラーは「社会民主党」の組織をどのようなものとみていたのだろうか
 「ある軍隊の個々の兵士が、教養や見識だけをとってみた場合、例外なく将軍なみであったならば、役に立たないだろう。同じようにある世界観の代表としての政治運動も、それがただ「才気かん発」の人間のため池にすぎないならば、役に立たないだろう。そうだ、政治運動もまた単なる兵卒を必要とする。そうでなければ、内面的規律が得られないからである。」『わが闘争(下)』(角川文庫、p126)「組織の本質には、最高の精神的指導者に、数多くの非常に感激しやすい大衆がつかえるときにのみ、成立しうるということがある。まったく同じ知的能力をもつ二百人の人間の団体は、百九十人の知的に劣った能力をもつものと、十人のより高い教養をもつものからなる団体よりも、けっきょく訓練することがいっそう困難だろう。」「社会民主党は、かつてこの事実から大きな利益を得た。社会民主党は兵役を終えて、すでに軍隊で訓練を受けてきた人々をわが民族の広範な層からつかみ、そして軍隊と同じように厳格な党の規律の中においたのである。
 「人々には、政党の強みというものは、決してその党員各人のできるだけ大きな自主的な精神性にあるのではなく、むしろ党員が精神的統率におとなしくついていく規律正しい服従にあるのだ、ということが決してわかっていなかったのだ。」(p127)
 つまり、ヒトラーは、敵である民主党の中央集権的組織から学んでナチス党の組織原理を作り上げたのである。
 さて、『政党の社会学』ドイツ語第2版に、ミヘルスは、次のような序文を書いている。
「私はまた二つの大きな政党運動、ボリシェヴィズムとファシズムを、本書で叙述した私の研究の範囲内でほんの時たま言及するという以上のことを試みるのを断念しなければならなかった。」と述べている。彼は、ボリシェビキは、ブランキズムであり、「できるだけ多数の大衆の組織であることをめざす政党組織と相容れない。」とするが、果たしてそうであろうか。
 私の考えでは、ボリシェビキとナチスは、社会民主党の寡頭制が最も進化し、その中央集権体制が極限にまで推し進められた政党であった。これらの政党にとって、ワイマル共和国が採用した選挙制度ー即ち比例代表制が最も有利な選挙制度であったということができるワイマール共和国の真の不幸は、ヴェーバーも危惧したように、社会民主党、共産党、ナチスという典型的な寡頭政党が議席の圧倒的多数を占めてしまった点にあると言える。